ヒューマンライブラリ⑥:母子家庭経験のある社員へのインタビュー

<1、3の文責・榎澤幸広(名古屋学院大学現代社会学部教授)、2、4の文責・株式会社アイエスエフネット ダイバーイン雇用委員会・ダイバーイン推進課)>

1.はじめに
2024年度ヒューマンライブラリ(名古屋学院大学現代社会学部榎澤ゼミ×アイエスエフネット)では、10月28日に引き続き、10月30日も3人の社員さんに登壇して頂きました(ワーキングプア、母子家庭、トランスジェンダー女性)。今回の記事は、10月30日登壇の二人目、アイエスエフネット入社時に母子家庭の母親側を経験した社員です(前回記事はワーキングプア経験のある社員(3月21日配信))。
ヒューマンライブラリ⑤:ワーキングプア経験のある社員へのインタビュー | アイエスエフネットの日々

厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」(2022年12月26日)によると(1~3頁)、母子世帯は119.5万世帯で、例えば、母子世帯の平均年間就労収入(母自身の就労収入)は236万円という推計値が示されています(父子世帯は14.9万世帯で、496万円)。母子世帯の平均年間収入(同居親族を含む世帯全員の収入)は 373 万円で、国民生活基礎調査による児童のいる世帯の平均所得を100として比較すると、 45.9となるとも示されています(父子世帯は606万円なので、74.5)。
参考資料4_令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果

シングルマザーやシングルファザーという言葉、上記のひとり親家庭の貧困問題や支援の話は近年ニュースで取り上げられるようになったと思う人もいるかもしれませんが、内閣府男女共同参画局のコラムによれば、「母子及び寡婦福祉法(昭和39年法律第129号)などに基づいて、経済的に厳しい母子家庭を中心に、子育て・生活支援、就業支援、経済的支援等の自立支援策が講じられてきた」と示されています。また、父子家庭に関しても、近年、このような支援が拡大されてきているとも記載されています。
コラム5 母子家庭の支援から,父子家庭を含めたひとり親家庭の支援へ | 内閣府男女共同参画局

このコラム内容から、母子家庭に関しては結構前から取り組みが存在していたことを理解できます。しかし、それ以前の日本国憲法制定過程時、関連する話が既に登場していたことにもふれておきたいと思います。

婚姻の自由や家庭内における男女平等などを規定する現行日本国憲法24条のモデルを作ったのが、日本での生活経験もあり、GHQメンバーの1人である22歳の女性、ベアテ・シロタであるというのは有名かと思います。
1946年2月上旬、正にGHQの憲法案が練り上げられる時期ですが、彼女はソビエトの憲法、ワイマール憲法をはじめ、いくつもの国の憲法を読みながら、「日本の女性が幸せになるには、何が一番大事か」考えたそうです(ベアテ・シロタ・ゴードン/平岡磨紀子(構成/文)『1945年のクリスマス-日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』(朝日新聞出版・2016)、177-182頁参照。以下の引用は182頁)。

…赤ん坊を背負った女性、男性の後をうつむき加減に歩く女性、親の決めた相手と渋々お見合いさせられる娘さんの姿が、次々と浮かんで消えた。子供が生まれないというだけで離婚される日本女性。家庭の中では夫の財産を握っているけれど、法律的には、財産権もない日本女性。「女子供(おんなこども)」とまとめて呼ばれ、子供と成人男子との中間の存在でしかない日本女性。これをなんとかしなければならない。女性の権利をはっきり掲げなければならない。…

このようなことを念頭に置いた上で、ベアテさんは、女性が専門職業や公職を含むどのような職業にもつく権利をもつことや男女同一労働同一賃金など様々な条文案を作成していくのですが、その中には、以下のような条文も存在しました(218頁)。

第一九条 妊婦と乳児の保育にあたっている母親は、既婚、未婚を問わず、国から守られる。彼女達が必要とする公的援助が受けられるものとする。
嫡出でない子供は法的に差別を受けず、法的に認められた子供同様に、身体的、知的、社会的に成長することに於いて機会を与えられる。

しかし、ベアテさんが作成した具体的な案は、憲法に入れるには細かすぎるとしてことごとく削除されました。自伝で当時を振り返るベアテさんは、職業の機会均等、同一賃金、母性の保護など、世界的にみても、まだまだ達成されていない国が多いとし、憲法作成作業に携わったGHQのアメリカ人ですら女性への理解者でなかったからこそ、「その分私が頑張らなければいけないと思ったが、力不足がつけとして今日まで残っている」と後悔の念を吐露してくれています(220頁)。

この本は元々、1995年10月に柏書房より出版されたものですが、2025年現在、ベアテさんが思い描いた社会になっているでしょうか。一つのきっかけとして、アイエスエフネットの取り組みや学生コメントなどからそれを確認して頂けたら幸いです。そして、ここでは詳細は示せなかったので、可能であれば、前述のベアテさんの自伝も読んだ上で、改めてアイエスエフネットや国・自治体の取り組みを確認してもらえたらと思います。

以下の構成は、「2.アイエスエフネットの取り組み&母子家庭経験のある社員に関して」、「3.学生コメント」、「4.次回予告」の順となっております。昨年度のヒューマンライブラリは、登壇社員に対する学生のインタビューのみでしたが、昨年度登壇社員の要望も受けて、今年度はインタビュー後、社員同士の交流対談も追加されました。2章にその内容の一部が示されておりますので、この点もふまえ読んで頂けますと幸いです。

※インターネットリンク先は2025年3月23日確認のものです。

2.アイエスエフネットの取り組み&母子家庭経験のある社員に関して
アイエスエフネットグループが掲げる人権方針に基づき、当社では「ダイバーイン(※1)雇用」に取り組んでいます。個人が抱えるさまざまな特性や個性によって就労困難な方に対し、環境や仕組みをつくり上げることで、本人や周りの方々が安心して働ける場を提供することを目標にしています。
アイエスエフネットでは、2006年に女性のための相談窓口「ウィメンズカウンシル」を設置、2012年にはグループ会社にも設置しました。女性が安心して、やりがいをもって働ける環境を整備・創造しています。女性が働く上での問題点の収集や新制度の企画、次世代育成法企業行動計画対応等の活動を行っています。また、女性管理職向けのメンタリング制度も導入し、働き方支援を行っています。

(※1)ダイバーシティとインクルージョンを掛け合わせたアイエスエフネット独自の言葉

【登壇者のご紹介】
氏名:R.M.さん

自己紹介:
はじめまして、R.M.です。
私は幼少期から母子家庭で育ち、大変貧しい生活を過ごしていました。母親も昼夜働いて生活費を一生懸命稼いでいました。その背中を見て、自分自身も経済的に自立し家族を養いたいと思うようになりました。貧しくても笑顔溢れる家庭だったことが私の未来を明るく照らしてくれたのだと思います。

学生の皆さまへのメッセージ
母子家庭で育ち、自身も母子家庭になった私は、片親で子育てをしながら、経済力をつける苦労を経験しました。
母子家庭は生活困窮のイメージが強いですが、中には私のように経済的に自立して働ける人もいると知っていただけると嬉しいです。
私は大変幸運だと思っています。なぜなら、努力した分だけ会社や仕事に恵まれ、人にも恵まれ今があると思っているからです。
これからも同じ境遇の人のお役に立てたらと思っていますし、少しでも生きる希望になればと思います。

対談相手へのメッセージ
同じように少数派でかつ経済的困窮者が多い私たちは、アイエスエフネットに出会い、人生が変わりました。いつも明るく、そして活動的な山下さんは、マイノリティであることを感じさせない前向きさも共通点だと思います。働きやすい会社で出会い、幸せを感じることができて本当に嬉しく思います。
いつもありがとうございます。

氏名:山下さん

自己紹介
静岡県の清水に住んでいます。2021年10月からFDM社員(※2)としてグループ会社のアイエスエフネットジョイで働いています。私は生まれつき発達障がいの特性を持っています。趣味は電車に乗ったり舞台鑑賞することです。

(※2)FDM社員:アイエスエフネットでは、障がいのある社員のことを「未来の夢を実現するメンバー」として、FDM(Future Dream Member)と呼んでいます。

学生の皆さまへのメッセージ
今回のヒューマンライブラリでは、さまざまなカテゴリがあり、多くの話をお聞きしたかと思います。
ヒューマンライブラリを通して名古屋学院大学の学生の皆さまと交流することができて、楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。

対談相手へのメッセージ
母子家庭・発達障がいというペアだったので、最初は共通点が見つかるかなと思いましたが、
共通点やテーマを3つ決め、安心して本番に取り組むことができたのではないかと思います。
R.M.さんとは一緒に業務する機会もあったので、不思議な感覚でした。ありがとうございました。

3.学生コメント

  1. 私はひとり親家庭への経済面での支援制度のお話が印象に残りました。一番苦労したことが経済面だとおっしゃっていて特にお子さんの修学旅行の際にはダブルワークをしてお金を用意していたそうです。しかしその修学旅行費を稼いだことで翌年の補助金が無くなってしまったと聞いて驚きました。今の支援制度では収入に応じて補助金が出ていますがお子さんの学校行事などイレギュラーな出費にも対応できる制度が必要であり、そういった制度や相談窓口などが今以上に知られる必要があると感じました。またISFnetにはフレックスタイム制や有休とは別に子どもの体調不良・学校行事に関するお休みが取れることなどから子育てしやすい環境であり家族中心の生活がしやすいと感じました。(3年 K.Y)
  2. 今回のインタビューで印象に残ったことの一つ目は、会社全体で家族を大切にする考えが当たり前となっており、休みに対する理解が社員全体を通して浸透しているというお話についてです。この考え方自体は多くの人に浸透していますが、家族のために休みを取りやすい労働環境を作ること、社員全体に浸透させることは困難なことだと思います。それを実現することができていることに感銘を受けました。
    二つ目は、過去のことや、現在の家庭環境などを特別視することなく平等に扱ってくれることや、一人ひとりの能力を見てくれるという点から安心して働くことができると話されていたことです。「安心して働くことができる」という言葉について改めて考えるきっかけになりました。当事者だからといって、特別な支援などではなく普段通り接すること、配慮しすぎないことが重要なことだと気づくことができました。
    このような環境作りは社員を一人ひとり見ているアイエスエフネットならではの考え方だと思いました。(3年 加藤光真)
  3. 今回母子家庭のR.Mさんにお話を聞いて、ISFnetさんの取り組みが世間一般に行われていないところまで行われており、私たちの生活において欠けてはいけない人権について考えられていたことがほとんどでした。
    その中でも私が一番この会社の魅力だと感じたことは今までの背景を見ずに能力やスキルに合わせて判断してくれるところです。
    「できることできないことを決めつけてしまうことが、その人の可能性を奪っている」ということにつながり、当たり前が当たり前ではないことを改めて考えさせられました。
    また私も小学生のころにR.Mさんのお子様と同じ経験をしていますので、母が会社勤めで大変な思いをしていたことを覚えています。なので、子どもの病気や行事以外にも孫に関わることまで特別休暇をいただけたり、フレックス制度を取り入れたりしていることが誰もが取り残されないようにつくられた制度であり、このような取り組みが社会の中で特別という枠にくくられて取り上げられるのではなく、他の企業にも広まり、当たり前になってほしいと感じました。(3年 K・H)
  4. 今回のインタビューでは、母子家庭での生活の背景で、様々な問題や支援について知ることができました。その中でも、私が一番気になっていた問題が、賃金問題についてです。2021での賃金格差は男性が100%だとして、女性は75%であることがわかりました。明らかな不公平だと思います。また、今回登壇してくださったR.Mさんは、こどもや生活費の確保のために、掛け持ちをして働いていましたが、賃金が上がることで、手当てをもらうことができなくなると聞きました。このように賃金の格差と支給限度額の問題が、母子家庭としてこどもを養うことを難しくさせていることがわかります。そのために、母子家庭でも安心して生活をすることのできる、支援や制度が必要です。R.Mさんが語っていたひとり親制度には、様々な手当てや減免制度があります。様々な手当てにて支給されるお金や扶助には条件があり、住宅手当などには、市町村独自の制度として、対象の地域でしか、受けることができない制度があります。今後、このような制度が全国的に広めることが課題となると思います。そのためにも今後の母子家庭の制度には、注目したいと思います。(3年 匿名)
  5. 不安を抱えながらも子どものために責任をもって仕事と家事の両立をし、ひとり親でも生き生きと生活できることを示すかのような強い志に感銘しました。とくにひとり親にとって体が資本であって、まず自分自身が健康でいなければならない中、子どもが不便なく学校生活を送れるように仕事を掛け持ちしているというお話を聞いて、親としてのR.Mさんの偉大さを感じました。私は父親の変わりにはなれないからという言葉が印象的で、自分らしさを追求した時、ISFネットという環境が能力、スキルに合わせたプロモーションをしてくれたというお話を伺い、改めて素晴らしい企業だと感じました。そのR.MさんもISFnetを通じて社会貢献されていることも素晴らしいです。
    今後、女性でも母子家庭でもキャリアを築ける支援が益々確立されていき、一人でも多くの人に知っていただけたらと思いました。貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。(3年 橘雅武)
  6. 今回母子家庭の方のお話を聞いて、私の周りに母子家庭の人がいなかったため、お話を聞けてとても良い経験になりました。「経済的な不安を感じることはありましたか」という質問に対して、「子どもの修学旅行の費用が不安だった」という回答を頂き、修学旅行という一生に2~3回しかないイベントの費用という大きなお金を稼ぐというのは相当な不安があったのだと感じました。パートをかけ持ちすることで収入は上がるが手当が無くなってしまうというお話を聞いて、収入が上がることは嬉しいことだと思うがひとり親での手当というものは大事であると思いました。なので、収入と手当の問題は難しい問題だなと思いました。また「前職と比べて働きやすいと感じるISFnetさんの良さはなんですか」という質問に対して、「事情を特別視しない、毎月様々なことが変化し、たくさんの人と関われるところが良いポイント」と回答していただき、そこがISFnetさんの良いところであり素晴らしい会社であるということが知れました。(3年 西山怜汰)
  7. 今回実際に母子家庭の方のインタビューで興味があったもの、ISFnetさんの取り組みに関して興味があるものを2つに分けて紹介する。
    1,ISFnetの取り組みで面白いと思ったところ。
    2,今後の自分に参考になるもの

    1,個人的にISFnetのなかでサポートがしっかりしているというところである。母子家庭の方を見てみると実際に子供がいる中での母子家庭状態であったのでもどかしかったのではないかと思った。確かに、子供がいる中で年収が300万以下というのは足りないだろう、その中で、この方はISFnetという企業を見つけて、子育て支援が充実しているだけでなく、相談もできるという環境が整えられているということを知ったという。実際に相談ができずに辞めていく人たちが多いのでその場面でもしっかりとサポートできるというのがメリットである。
    2,この話を聞いて自分が参考になるところはたくさんある。母子家庭の人だけを参考にすると、それまで働いていた会社を辞めてISFnetに行ったということは行動力がすごいなと感じた。そしてISFnetでいったら、持病もちやちょっとした発達障がいの人でも、ちゃんと相談に乗ってもらえるという点である。つまり、働いている人にやさしいといえる環境なのである。(2年 匿名)

4.次回予告
次回登壇者の属性は、トランスジェンダー女性です。今年は学生からのインタビューに加えて、異なる属性を持つ社員同士の対談を実施しました。昨年同様にインタビューした学生コメントや対談相手へのコメントなどを約10日後に掲載予定ですので、引き続き閲覧していただけたらと思います!