ヒューマンライブラリ⑦:トランスジェンダー女性社員へのインタビュー

<1、3の文責・榎澤幸広(名古屋学院大学現代社会学部教授)、2、4の文責・株式会社アイエスエフネット ダイバーイン雇用委員会・ダイバーイン推進課)>

1.はじめに
2024年度ヒューマンライブラリ(名古屋学院大学現代社会学部榎澤ゼミ×アイエスエフネット)では、10月28日に引き続き、10月30日も3人の社員さんに登壇して頂きました(ワーキングプア、母子家庭、トランスジェンダー女性)。今回の記事は、10月30日登壇の三人目、トランスジェンダー女性社員です(前回記事は母子家庭経験のある社員(4月2日配信))。
ヒューマンライブラリ⑥:母子家庭経験のある社員へのインタビュー | アイエスエフネットの日々

2023年度のゼミ生たちに、「どの属性の社員さんにインタビューしたいか」確認したところ、上位はLGBTQIAでしたが、2024年度も同様の結果となりました(下記のリンク先は2023年度登壇して下さったLGBTQIA社員二人に対するインタビュー記事です)。
ヒューマンライブラリ Part.2:LGBTQIA (性的指向)社員へのインタビュー | アイエスエフネットの日々
ヒューマンライブラリPart.6:LGBTQIA(性自認)を属性とする社員へのインタビュー | アイエスエフネットの日々

アンケートを取ったのは2024年5月ですが、その関心の高さの理由の一つが前年の国内動向と関係していたようです。例えば、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が2023年6月23日に施行されたこと(法律条文のリンク先は下記)、「結婚の自由をすべてのひとに訴訟(同性婚訴訟)」や「性同一性障害特例法の要件を違憲とする最高裁決定」がニュースで大々的に報じられたことなど(後者のニュース例のリンク先は朝日新聞2023年10月25日 15時11分配信記事)。
性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律 | e-Gov 法令検索
トランスジェンダー性別変更、生殖不能の手術要件は「違憲」 最高裁:朝日新聞

その他にも、「SNSなどでの性的マイノリティに対する誹謗中傷と思われる内容は真実なのか」、「この社会での性的マイノリティ当事者の生きづらさはどのようなものなのか」などの問題意識からインタビューしたいと思った者もいたようです。

実は、このような問題意識を持ち続けることこそが、個々の生き方を尊重する共生社会を作るきっかけや原動力になるかもしれません。このような意識がないと、災害や戦争などの惨事に便乗しようとする一部の人間によって人権が大切にされない世の中にいつのまにか作り替えられてしまっても、大勢の人が気づかないこともあります。また、人権に無関心な権力者が誕生してしまった結果、文化や民族の違いを煽られ、ふとしたことをきっかけに、昨日までは仲の良かった隣人や友人がいつのまにか殺し合うことになる最悪の分断状況に陥ってしまう場合もあります。

おぞましい話だなと思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、人権保障を中心にすえる憲法や国際人権の考え方はそういう社会を二度と作らないことを最も大事にしています。この点、学生コメントを読む限り、この社会での生きづらさを教えてくれると同時にその経験をふまえ道を切り開くモデルケースになりたいと話して下さったトランスジェンダー女性社員の考え方や行動は、憲法などが描く社会を維持し発展させる具体的なヒントを示してくれているように思えました。この社員がそのように思えるきっかけを与えてくれたアイエスエフネットの取り組みを解明することも、もしかするとより良い共生社会を作る何らかのヒントになるかもしれません。

以下の構成は、「2.アイエスエフネットの取り組み&トランスジェンダー女性社員に関して」、「3.学生コメント」、「4.次回予告」の順となっております。昨年度のヒューマンライブラリは、登壇社員に対する学生のインタビューのみでしたが、昨年度登壇社員の要望も受けて、今年度はインタビュー後、社員同士の交流対談も追加されました。2章にその内容の一部が示されておりますので、この点もふまえ読んで頂けますと幸いです。

※インターネットリンク先は2025年3月31日確認のものです。

2.アイエスエフネットの取り組み&トランスジェンダー女性社員に関して
アイエスエフネットグループが掲げる人権方針に基づき、当社では「ダイバーイン(※1)雇用」に取り組んでいます。個人が抱えるさまざまな特性や個性によって就労困難な方に対し、環境や仕組みを作り上げることで、本人や周りの方々が安心して働ける場を提供することを目標にしています。
アイエスエフネットグループの人権方針には「性的指向」と「性自認」の差別禁止が明記されてます。私たちアイエスエフネットグループは多種多様な人がよりよく働くために、規程や制度の改善を常に行っております。変更された制度を中心にご紹介します。

(※1)ダイバーシティとインクルージョンを掛け合わせたアイエスエフネット独自の言葉

【登壇者のご紹介】
氏名:光田さん

自己紹介:
動物が大好きでさまざまな生きものたちと楽しく暮らしています。
約8年前に性別適合手術を受けて性別移行を行っておりますが、アイエスエフネットではとても充実した日々を過ごしています。これからも自分らしく楽しくをモットーに人生を送っていけたらと思います。
写真はフクロモモンガの「ひめちゃん」。寂しがりやだけど、夜には走り回ったりと元気いっぱいです。

学生の皆さまへのメッセージ
大変心遣いのあるインタビューをしていただきありがとうございました。
私の学生時代と比べても、学生の皆さんのLGBTQIAに対する知識や配慮に大変感動しました。
当事者にとって周囲の理解やサポートは非常に重要です。私自身も家族や友人の心温かい支援のおかげで、自分らしく生きられる今があると言っても過言ではありません。見えていないだけで、皆さんの周りにも当事者がいる可能性は決して低くはありません。皆さんの理解ある言動は、当事者にとって居心地がよく、自分らしく生きるための勇気や希望を与えることになります。皆さんならきっとできると信じています。

対談相手へのメッセージ
対談ではいろいろとお話しさせていただきありがとうございました。
LGBTQIAという共通点があったからこそ、社内で出会えて今回のヒューマンライブラリに一緒に参加できたことに感謝しています。
社会的マイノリティであっても、自らがロールモデルとなることで当事者だけでなく会社全体の心理的安全性を高めたり、多様性への理解を深めるための情報発信源となったり、社会的マイノリティの私たちだからこそできる強みを活かして、今後もいろいろなことに取り組んでいきたいと思っています。

氏名:國吉さん

自己紹介+学生の皆さまへのメッセージ
https://www.isfnet.co.jp/isfnet_blog/index.php/2024/01/31/2727/
対談相手へのメッセージ ヒューマンライブラリの感想
光田さん、副支店長として活躍されるあなたとのペアで、このプロジェクトに参加できたことは、私にとって非常に刺激的で貴重な経験でした。
あなたの柔軟で力強いリーダーシップや、トランスジェンダー女性としての体験談は、学生の皆さんだけでなく私自身にも多くの学びをもたらしました。
これからも一緒に、マイノリティの声を社会に届けるための活動を続けていきたいです。

ヒューマンライブラリを通じて、学生の皆さんと対話し、自分自身のあり方や働き方を振り返る機会を得ました。
また、多様な社員が登壇者となることで、私たち自身も互いの理解を深められました。
このような産学連携プロジェクトは、マイノリティのリアルな声を若い世代に伝え、未来の多様性を支える力になると感じています。
改めてこの場で感謝申し上げます、本当にありがとうございました。

3.学生コメント

  1. 光田さんの「自分がロールモデルになる」という言葉を聞いて素晴らしい方だなと率直に思いました。ご自身の経験上30代までカミングアウトできない、それも相談できないなど、大変苦しい思いをされたと聞きました。そう言った経験を「人の役に立てたい」と思えることがすごいことだと思います。ISFnetさんとのかかわりの中でどんな属性の人でも出世できるということ、をご自身で証明されているのもかっこいいなと思います。それらを踏まえISFnetという企業さんのダイバーイン雇用のための様々な仕組みがより素晴らしいなと感じることが出来ました。今後の活躍として、同属性の人たちがかかわれる場をもっと作っていきたいとおっしゃられていたので、悩める人の助けになる場を広めていっていただきたいと思います。ありがとうございました。(3年 稲葉一颯)
  2. 印象に残っていることは、登壇者同士の「会社に必要なものや求められていることは何か」というテーマの対談内容についてです。そこでは相談窓口やロールモデルの重要性について取り上げられていました。対談を聞く前は会社でロールモデルを作る重要性や効果は何か分かりませんでしたが、自分が働く姿を見て励みになってもらうことや相談に乗る環境を整えることで、幅広く属性に対する認識の共有を行うためだと知りました。そのため、同じ悩みや属性を持つ人のモチベーションの向上や安心にも繋がると感じたため、必要不可欠なものだと気づかされました。
    また、光田さんのインタビューを聞く中でISFnetでは働きやすい環境が整っていること、支援やサポートが充実していることに改めて気づかされました。ISFnetに入社したきっかけでは、ダイバーシティの取り組みを行っているからだとおっしゃっていたことや、良いところ・働きやすいところに関しては、ダイバーイン雇用を掲げていること、研修が充実していること、セルフケア休暇制度があることなどを挙げていたため、ISFnetではどんな人も誰一人として取り残さずに共に歩んでいこうとする環境が整えられていると気づくことができました。(3年 I.Y)
  3. 私はISFnetが差別に真っ向から向き合っている企業であり、そこが魅力であるというお話が印象に残りました。他社ではトランスジェンダーであることをカミングアウトして管理職に就いている人はあまりいないそうです。しかしISFnetはトランスジェンダー女性が管理職に就き活躍されているため、差別をしない企業であると感じました。また、ISFnetにはセルフケア休暇があることを知りました。トランスジェンダー女性である社員の方はホルモン治療を受けており、平均的に二週間に一回から一か月に一回の通院や副作用で生活に支障が出てしまうことがあるため助かっているとおっしゃっていました。セルフケア休暇はトランスジェンダーの方に限らず、ISFnetには様々な個性をもった社員さんがいるため働きやすい環境作りの大きな要因になっていると感じました。今回インタビューを行って、マイノリティへの問題を完全に解決することは難しいけれど、より良い社会になるように関心をもって考え続けることが大切だと考えました。(3年 K.Y)
  4. トランスジェンダーの抱える問題について考えることが出来ました。初めに、登壇者さん本人が自分の過去からカミングアウトをする経緯などを語ってくれたことで、当時の心情や他人に知ってもらいたいことについて考えることが出来ました。特に印象に残ったことが、カミングアウトをしたときの話です。私も友人にカミングアウトをされたとき、同じような反応をすると思います。ですが、一友人として、向き合う選択をすると思います。もし、誰かが自分の気持ちを抱え込んでいたら、親しいひとに相談するだけでも、気持ちのつっかかりが軽減すると思います。また、自分自身を誇らしく思ってほしい。
    トイレ問題は、前回のインタビュー同様に改善すべきだと思います。ジェンダーレストイレでは、間違った使い方や利用の仕方をしている人がいること、多目的トイレは、普段あまり見かけないことから普及台数が少ないと感じました。こうしたジェンダーレストイレの使い方や多目的トイレの普及が今後の課題となると思います。(3年 匿名)
  5. 今回のヒューマンライブラリのお話では、自分たちがいかに縛られた価値観のもと生きてきたかを実感するとともに、性的マイノリティを含め多様な生き方が存在することをお話しいただき、非常に勉強になりました。特に重く受け止めなければと思ったのは、決して他人事ではないということ、そしてカミングアウトされた方の勇気と信頼を正面から受け止めるという点です。私はこれまで、トランスジェンダーの方と関わったことがないと思っていました。存在自体は知っていましたが、縁のない事だと軽く考えていましたが、現代では日本の LGBTQIAの割合は人口の8~10%といわれ、多様な性の向き合い方が実現されてきています。場合によっては関係性が壊れてしまう可能性があるにも関わらず、幼少期から孤独に抱えてきたモヤモヤなどをカミングアウトされたら、まず事実を認識してありのままを受け入れられるような人間になりたいと思いました。お話の中では無理に気を遣うことはないとのことでしたが、相手を尊重してこれまで以上の関係性を築けていけたらと思います。貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。(3年 橘雅武)
  6. 光田さんの話を聞き、現状を良くしようとひたすら突き進む姿勢に感銘を受けました。特に、入社時、トランスジェンダーの人がいることは知っていたものの表面上に出ておらず、認知や理解のきっかけになるためにも自分がロールモデルになりたいとおっしゃっていたことが印象深かったです。いないなら自分がなるというこの積極性と前向きな考え方に、周りの人も心が動かされ相談したいと思えたのだろうと考えさせられました。トランスジェンダー女性ということとは関係なく、人としてこうしたまっすぐな姿勢を見習いたいと思いました。
    また、世間のトランスジェンダーの認識と実際の違いについての話では、世間ではトランスジェンダーの人は男女両方の気持ちが分かると思われがちであったり、創造性・クリエイティブな発想があると思われがちであったりするが、実際はどちらも当てはまらないということが分かりました。後者の意見についてはメディアに出ている人の影響もあるとおっしゃっており、話を聞くまで私自身確かにメディアに出ている人の印象が強く、多少なりともクリエイティブな人が多いという認識があったように思います。こういった無意識な偏見にも意識を向け改善していきたいです。(3年 H.K)
  7. ISFnetのミツダさんはトランスジェンダー女性ということでインタビューさせていただいた。
    まず、説明として、トランスジェンダー女性というのは心と体の性別が一致せず、心は女性で体は男性と言われていた。
    ミツダさんが自分の心と体の性別が一致していないことに気づいたのは小学生の頃であり、中学生などの思春期になるにつれて性差について悩むことが日々増えていった。そんな悩んでいたミツダさんだが、親しい人にはカミングアウトすることもあったという。しかし、親しい人でもカミングアウトするのはハードルが高く、今後も親しくしてくれるかといった不安も大きかった。ミツダさんが大々的にカミングアウトするようになったのは30代であり、本人はカミングアウトされても今まで通り接し方や無理に気を使わないのを望んでいる。
    前職を退職後、性別適合手術をし、戸籍上の性別と名を変更したという。
    その後、様々な属性のそれぞれに合わせた対応をするアイエスエフネットに入社し、
    自身も柔軟なサポートを受けているという。 (3年 匿名)

4.次回予告
次回は、1月31日投稿の1回目から今回までの内容を踏まえて、総括やコメントの記事を掲載いたします。約10日後に掲載予定ですので、引き続き閲覧していただけたらと思います!