ヒューマンライブラリ②:難病の社員へのインタビュー

<1、3の文責・榎澤幸広(名古屋学院大学現代社会学部准教授)、2、4の文責・株式会社アイエスエフネット ダイバーイン雇用委員会 ・ダイバーイン推進課)>

1.はじめに
10月28・30日開催の2024年度ヒューマンライブラリ(名古屋学院大学現代社会学部榎澤ゼミ×ISFnet)にて、ありがたいことに6人の社員さんが学生インタビューを受けて下さいました。このブログでは、今回も含め6回にわたりその内容を紹介していこうと思いますが、そのトップバッターを務める登壇社員の属性が「難病」です。

2016年4月1日施行の『難病の患者に対する医療等に関する法律』によると、「難病」とは、“発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの”を指すとあります(1条)。

難病属性の社員が登壇することを私から聞いた学生の中には、ドラマやアニメに描かれるような、病院の片隅で寝たきりの生活をしている状態の人をイメージした者もいたようでした。しかし、厚生労働省のホームページ(以下、厚労省HP)を確認してみると、2024年4月に「MECP2重複症候群」「線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)」「TRPV4異常症」が追加され、2024年12月18日現在の指定難病は341もあることがわかります。指定難病 |厚生労働省

秋本康さんがプロデュースする国民的アイドルグループAKB48で大人気であった柏木由紀さんは2021年6月、「脊髄空洞症(告示番号117)」であったことを公表されております。また、ハロー!プロジェクトのアンジュルムメンバー平山遊季さんは発熱や倦怠感などの症状が続いていたため医師に診察してもらった結果、「ベーチェット病(告示番号56)」であることが判明しました。
柏木由紀 難病入院生活で実感“AKBは元気を与える”アイドル17年間「卒業するその日まで楽しみたい」― スポニチ Sponichi Annex 芸能
ニュース詳細|ハロー!プロジェクト オフィシャルサイト

これに加え、現在の医科学力をもってしても解明できていなかったり、治療方法が確立していない症状もあるので、これから指定される可能性のある難病の数はどれくらいになるか想像もつきません。この点、女優の米倉涼子さんが患った「脳脊髄液減少症」も指定されていない難病といわれ、関係者らによって署名活動が盛んに行われているようです。

ところで、登壇社員の指定難病名は「潰瘍性大腸炎(告示番号97)」です。厚労省HPの解説によれば、その症状は「主に、血便、粘血便、下痢あるいは血性下痢」を呈し、「他の症状としては腹痛、発熱、食欲不振、体重減少、貧血などが加わることも多い」とあります。更に、「関節炎、虹彩炎、膵炎、皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)などの腸管外合併症を伴うことも少なくない」ともあります。001173518.pdf

この難病になる原因は基本不明のようですが、実は公表している有名人は多く、安倍晋三元首相、アイドルグループ#2i2の天羽希純さん、元ラグビー選手の川西智治さん、脚本家の北川悦吏子さん、モデルの高橋メアリージュンさん、タレントの若槻千夏さんなどの名前をあげることができます。また、患者数(令和元年度医療受給者証保持者数) は126,603 人(前段落PDFに記載)で、現在はもっと多いといわれています。このデータ通りであるならば、自分の身の回りにも当事者が生活している確率は高いかもしれません。

学生コメントの中には、「この病気のことを調べれば調べるほど「治療と仕事との両立」は難しいのではないか」と思いながらインタビューに臨んでいた者がいたことも記されております。実際、「治療と仕事との両立」はこの指定難病における一大テーマであり、近年、全国各地での工夫や取り組みを取り上げる論考も少しずつ増えてきているように思われます。読者の皆様には、この点に関し、ISFnetの取り組みがいかようなものなのか、社員や学生のコメントなどから読み取ってもらえたらと思います。また、その他の取り組みに関する論文タイトルや執筆者名なども紹介しておきますので、ISFnetやこれらの取り組みを通じて、難病である者もそうでない者も双方にとって過ごしやすいよりよい社会にする方法を考えるきっかけにして頂けたら嬉しい限りです。

五十嵐総一「潰瘍性大腸炎当事者の就職活動における工夫、求められる支援者の連携」日本難病医療ネットワーク学会機関誌9巻1号(2021)、63頁。
枡井真実「難病がある方の治療と仕事の両立支援・就労支援」難病と在宅ケア29巻9号(2023)、20-23頁。

以下の構成は、「2.アイエスエフネットの取り組み&難病の社員に関して」、「3.学生コメント」、「4.次回予告」の順となっております。昨年度のヒューマンライブラリは、登壇社員に対する学生のインタビューのみでしたが、昨年度登壇社員の要望も受けて、今年度はインタビュー後、社員同士の交流対談も追加されました。2章にその内容の一部が示されておりますので、この点もふまえ読んで頂けますと幸いです。

※リンク先はすべて2024年12月18日確認のものです。

2.アイエスエフネットの取り組み&難病の社員に関して
アイエスエフネットグループが掲げる人権方針に基づき、当社では「ダイバーイン(※1)雇用」に取り組んでいます。個人が抱えるさまざまな特性や個性によって就労困難な方に対し、環境や仕組みをつくり上げることで本人や周りの方々が働ける場を提供することを目指しています。
本記事では「難病」を抱える社員からお話を伺いました。アイエスエフネットでは、すべての社員が、長く、健康に、安心して働くことができるよう健康経営に取り組んでいます。

(※1)ダイバーシティとインクルージョンを掛け合わせたアイエスエフネット独自の言葉

【登壇者のご紹介】
氏名:S.M.さん

自己紹介:
2010年にアイエスエフネットに入社し、2021年にグループ会社のアイエスネットハーモニー(現:アイエスエフネットジョイ)に転籍しました。
今から4~5年ほど前に潰瘍性大腸炎と診断されました。診断後は、通院や負担軽減等配慮を受けながら、仕事をしております。

学生の皆さまへのメッセージ
先日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました。
当社の取り組みに興味を持って、さまざまなご質問を考えていただき、大変素晴らしいと思います。
当社は、未経験からさまざまなことにチャレンジできる可能性を用意しております。もし、IT業界に興味がある方いらっしゃいましたら、ぜひ当社もご検討くださると幸いです。

対談相手へのメッセージ
先日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました。
猪井さんはシニアで活躍され、年齢、国籍、実績、病気の有無等にとらわれない当社の雇用に魅力を感じていたかと思います。体調面にも気をつけながら、今後も頑張っていただけたらと思います。

氏名:猪井さん

自己紹介+学生の皆さまへのメッセージ
https://www.isfnet.co.jp/isfnet_blog/index.php/2024/01/15/2693/

対談相手へのメッセージ ヒューマンライブラリの感想
S.M.さんのお話を伺って、潰瘍性大腸炎がどのような病気なのか、どのような配慮事項が必要なのかが理解できました。特定の日に通院が必要な配慮について、当初は周りの理解が不足していた時期もあったそうですが、現在は理解が進んでいるようですね。
また、我々の年代では避けて通れない親の介護についても、会社の制度を利用して介護休暇を取得されていることは当社のメリットかと思います。ハンディを抱えている当社の社員が情報交換できる当事者会のご提案は、実現すれば皆さんの悩みや不安の解消につながると感じました。

3.学生コメント

  1. 今回難病当事者であるS.M.さんが、日常生活での大変さや、ストレス面での辛さも含めた様々なことを話してくださいました。
    私自身このような機会を与えてくださったおかげで難病について調べ、知ることができ、当事者の方にお話を聞けたことで、より深く知る事ができました。
    ありがとうございました。
    難病の方のストレスケア面でISFネットでは精神科医での相談を行っていたり、病気持ちであるからできないと決めつけず、プラス面を引き出してくれたりしているので人権問題を考えていく中でこれらの取り組みや考え方は必要不可欠だと感じました。
    また『ISFネットさんの取り組みでこんなサポートがあればいいなと思う事』の質問に対して、「障がいを持つ方が集まる当事者会を作ればいろいろな情報共有ができて良い環境になる」とおっしゃってくださいました。私は当事者の方だから理解し合えることもあり、こうした機会をもつことがS.M.さんのさらなる強みになると感じました。
    (3年 K・H)
  2. 今回は貴重なお話を聞かせていただき、勉強になりました。会社の病気への配慮と理解の深さに感銘を受けました。特に印象的だったのは、通院休暇への柔軟な対応です。必要な時に気兼ねなく通院できる環境が整っていることは、難病と向き合いながら働く方々にとって大きな支えになっていると感じました。
    また、個々の状況に応じて、無理なく本領を発揮できるよう配慮されている点も素晴らしいと思います。これにより、難病を抱えていても自分の能力を最大限に生かせる機会が提供されているのだと感じました。
    一方で、さらなる改善点として、ハンディを抱えている方の当事者会を会社に設立すると良いのではないかと、おっしゃられていました。このような場があれば、同じような境遇の方々との情報交換や経験の共有ができ、より働きやすい環境づくりにつながるのだと感じました。
    このお話から、ISFネットさんは難病を持つ方々に対して理解ある対応を心がけており、働きやすい環境を提供していると感じました。今後も継続的な支援と配慮をしていただき、ハンディを持つ方が働きやすい環境を作り続けてほしいです。ありがとうございました。
    (3年 S.Y)
  3. 私はS.M.さんのお話の中で、病気に対する理解や苦しんでいる人がいることを知ることが最も大切だと感じました。今回のインタビューがあるまで潰瘍性大腸炎の存在を知りませんでした。病気や症状のことについて知らなければ配慮や気遣いも難しいので、まずは知識をつけることが必要だと感じました。
     また、アイエスエフネットにはさまざまな障がいや属性を持った方もいるため、お互いに助け合っているというお話もありました。自分だけではなくほかの人も何かしら抱えているという環境は、安心して働けるとともに自身の力を存分に発揮できる環境にもつながっていると感じました。
     今回のインタビューを通して、苦しんでいる人がいるという認識を持つとともに、そのような人が働きやすい環境づくりが大切だと改めて感じました。
    (3年 柴田空)
  4. 今回難病(潰瘍性大腸炎)の方のお話を聞いて、私の周りには難病を持っている人がいないため、お話を聞けてとても良い経験になりました。インタビュー前に難病のことを調べてみて、この病気を抱えたまま生活を送るのは少し難しいのではないかと思っていました。お話を聞いてISFnetのサポートも手厚くお仕事をされていて病気を抱えているから仕事ができないと思うのは違うと私の考えを改めることができました。「会社内で病気の理解、配慮はありますか」という質問に対して、「会社内外、病気にならないとすべてを理解することはできない」という回答を頂き、病気を抱えている人のことを病気ではない人がすべてを理解しようとしてもできないということを改めて理解することができました。
    (3年 西山怜汰)
  5. 「潰瘍性大腸炎」は指定難病の一つです。難病とは、治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とする大きな経済的負担のことを指します。今回インタビューをさせていただいたS.M.さんは今もこの病気と向き合って生活していること、率直に「とても強い人」だと感じました。
    S.M.さんのお話の中で、病気の付き合い方について触れられる場面がありました。病気が発覚した時の心境は「複雑」とおっしゃっていたのに対し、現在の心境は「前向きに」と捉えられていて、この心境の変化はきっとアイエスエフネットという会社が、病気に対して、更にS.M.さんに対してきちんと「理解」をしていることの現れではないかなと思いました。
    また、他社員との病気の理解があるという部分に関して、症状をただただ理解するだけでなく、どのような配慮が必要なのかをきちんと考えられていて働きやすい環境づくりがされていることを強く感じることができました。
    (3年 D.H)
  6. インタビューを通して最も印象的だったのは、「病気は一度なってみないと分からないことではあるが、多くの人に潰瘍性大腸炎がどのような病気なのかを知ってもらえたらありがたい。知識を身に付けてもらえば、どのような配慮が必要なのか少し分かってくると思う。通院が必要であることやトイレに頻繁に行かなければならないことなどに対する理解、配慮ができれば、お互いに良い気持ちで過ごすことができるはず。」というお話です。仕事をする上で、遅刻してくる人や仕事がなかなか進まない人に対して、冷たい目を向けられがちですが、その人にはその人の事情があるのかもしれないという心持でいることが大切だと感じました。私は今回の難病の方含め、より多くの属性の方のことを知っていきたいと強く思いました。理解して配慮してくれる人が一人でもいれば、とても救われることを教えていただきました。
     「病気だからこれはできないだろうと決めつけたりされないことが嬉しかった」とおっしゃっていたことも印象的でした。難病についての知識を深めつつも、特別視したり勝手な決めつけをしたりすることは避けようと思いました。
    (2年 匿名)

4.次回予告
次回登壇者の属性は、ADHDです。今年は学生からのインタビューに加えて、異なる属性を持つ社員同士の対談を実施しました。昨年同様にインタビューした学生コメントや対談相手へのコメントなどを約10日後の2月21日頃掲載予定ですので、引き続き閲覧していただけたらと思います!