ヒューマンライブラリ③:ADHDの社員へのインタビュー
<1、3の文責・榎澤幸広(名古屋学院大学現代社会学部准教授)、2、4の文責・株式会社アイエスエフネット ダイバーイン雇用委員会・ダイバーイン推進課)>
1.はじめに
今回は、10月28・30日開催の2024年度ヒューマンライブラリ(名古屋学院大学現代社会学部榎澤ゼミ×アイエスエフネット)にて、28日の学生インタビューを受けて下さった「ADHD」属性の社員に関する記事です(前回記事は「難病」の社員(2月12日配信))。
https://www.isfnet.co.jp/isfnet_blog/index.php/2025/02/12/3322/
政府広報オンライン2025年1月9日配信記事『発達障害ってなんだろう』によれば、“ADHD”とは、注意欠陥多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)のことで、「「集中できない(不注意)」「じっとしていられない(多動・多弁)」「考えるよりも先に動く(衝動的な行動)」などを特徴する発達障害」と定義されています。
発達障害って、なんだろう? | 政府広報オンライン
ADHDを公表している有名人もかなり存在しますが、このホームページでは、その他の主な発達障害として、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、トゥレット症候群、吃音(症)もあげています(発達障害者支援法2条1項にも「発達障害」の定義が規定されているので、よかったらご確認下さい)。
発達障害者支援法 | e-Gov 法令検索
このような主な特徴を示した後、同ホームページでは、「なお、発達障害は、複数の障害が重なって現われることもありますし、障害の程度や年齢(発達段階)、生活環境などによっても症状は違ってきます。発達障害は多様であることをご理解ください。」とも記載されております。
この点、「脳の多様性」という言葉を使う研究者もいます。京都府立大学文学部准教授であり、40歳でASD、ADHDと診断された横道誠氏は「脳の多様性」や「ニューロダイバーシティー」について以下のように説明しています(「インタビュー11 [専門家・当事者]横道誠氏 発達障害を生きるのは、エヴァンゲリオンの操縦と似ている」黒坂真由子『発達障害大全-「脳の個性」について知りたいことすべて』(日経BP・2023)、524-525頁)。
“「ニューロダイバーシティー」というのは、脳の特性に基づく発達障害の診断を、病気や障害とみなすのでなく、脳の少数派(ニューロマイノリティー)として捉える考え方です。英語圏で始まった「自閉症権利運動」から、1990年代後半に生まれた概念で、今、発達障害の関係者たちの間へと広がっています。
この立場に立つと、発達障害と定型発達の違いは、「脳の多様性」で説明できます。発達障害者がニューロマイノリティーであるなら、定型発達者がニューロマジョリティー(脳の多数派)ということになります。誰もが皆、一人ひとり、脳の多様性のなかを生きているということです。”
“定型発達”とは「発達障害ではない多数派の人々の発達を指す言葉」とのことですが(前掲書、505頁)、私はこのような「脳の多様性」という考え方を知った時、例えば、「性の多様性」を考える上で性的マイノリティもマジョリティも包摂するといわれるSOGI(Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字をとった言葉)という用語を思い浮かべました。一人ひとりこの社会での息苦しさは皆異なりますし、「脳の多様性」も含め「○○の多様性」という視点を用いて、個人や社会をていねいに見ていくことは、「誰にとって生きやすい/生きにくい社会なのか」といった構造分析や改善点など、新たな気づきを与えてくれるものだと思います。
この点、横道氏は自身が住んでいる京都のバリアフリーのレベルの高さを感じるとし、それはお年寄りのために住みやすい街をつくれば、観光客も含めみんなにとってすごしやすい街になると指摘しています。それと同様に、「発達障害者にとって生きやすい社会をつくっていくことによって、定型発達者も生きやすくなるという道があると思うんです。そんな社会をつくっていけたらいいなと思っています」とも述べられております(前掲書、514-515頁)。
この指摘はとても重要で、学生コメントを読む限り、アイエスエフネットの取り組みや登壇社員が提案する改善点からも、上記の新たな気づきやそのような社会をつくるヒントが見出せるように思えました。読み方は人それぞれですので、読者の皆様には自由に読んで頂けたらと思います。ただ、私が感じるようにもし新たな気づきや何かのヒントになるようでしたら、今後それを共有し合うことで、横道氏のいう社会実現に近づくことができるかもしれません。
以下の構成は、「2.アイエスエフネットの取り組み&ADHDの社員に関して」、「3.学生コメント」、「4.次回予告」の順となっております。昨年度のヒューマンライブラリは、登壇社員に対する学生のインタビューのみでしたが、昨年度登壇社員の要望も受けて、今年度はインタビュー後、社員同士の交流対談も追加されました。2章にその内容の一部が示されておりますので、この点もふまえ読んで頂けますと幸いです。
※リンク先はすべて2025年2月12日確認のものです。
2.アイエスエフネットの取り組み&ADHDの社員に関して
アイエスエフネットグループが掲げる人権方針に基づき、当社では「ダイバーイン(※1)雇用」に取り組んでいます。個人が抱えるさまざまな特性や個性によって就労困難な方に対し、環境や仕組みをつくり上げることで本人や周りの方々が働ける場を提供することを目標にしています。
ダイバーイン雇用の活動の一環として、ADHDをはじめとする発達障がいを抱える方が働きやすい現場環境をつくるため、管理職向けの研修の実施や、だれでも利用できる相談窓口を設置しています。
また実際に困りごとがある場合には、月に一度の会議において役員や上長・産業医が協議を行い課題解決に向けて全社で取り組んでいます。
障害者手帳の取得(※2)(※3)も推奨しており、ご本人の意思を尊重したうえで取得のフォローを行っています。
(※1)ダイバーシティとインクルージョンを掛け合わせたアイエスエフネット独自の言葉
(※2)障害者手帳取得について、本記事内における当社社員の取得状況とは関連しておりません。
【登壇者のご紹介】
氏名:小宮さん
自己紹介:
過去にADHDと診断されて解雇された経験があります。
特性としては、不注意型で物忘れが多いです。特に外出時等で携帯や財布を忘れがちです。
現在はセキュリティ業務を担当しています。
学生の皆さまへのメッセージ
学生の皆さまには貴重なお時間をいただき、大変感謝しております。
参加者の中には発達障がいの特性があり、コミュニケーションなど不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。できないことも多くあると思いますが、できることを1つ1つ大事にして少しずつ努力していくことが、より良い人生につながると私は考えています。
お互いに頑張りましょう。応援しております。
対談相手へのメッセージ
準備また当日もファシリテーターとしてご対応いただきありがとうございました。
私自身のスケジュールの問題があり、なかなか準備することができない中、サポートしていただいたこと、大変感謝しております。今後とも会社でお会いした時にはよろしくお願いします。
氏名:廣瀬さん
自己紹介+学生の皆さまへのメッセージ(2023年記事)
https://www.isfnet.co.jp/isfnet_blog/index.php/2024/02/15/2745/
対談相手へのメッセージ ヒューマンライブラリの感想
アイエスエフネットグループでは、ダイバーイン雇用を掲げております。
HSPはその中には含まれないものの、仕事をするうえでHSPに起因する働きづらさはゼロではないと私自身感じております。
昨年に引き続き、ヒューマンライブラリに登壇させていただき、今年はペアの方とお互い共通する部分について対談をいたしました。
対談を通して学生の皆さんにお伝えしたかったことは、「HSP」だから、引きこもりたくなる、人と会いたくない日があるのではなく、それはだれにでも起こりうることだということです。
だれでも忙しくて余裕がなくなってしまうこと、落ち込むことや一人になりたいことはあるのではないでしょうか。
周囲の人の顔色をうかがったり、気を遣いすぎて自分のことをおざなりにしてしまうことはないでしょうか。
だれでも無理が続けば、身体的にも精神的にも異常をきたすことがあります。
ほんの少しの工夫や理解で、だれかが働きやすい環境をつくるということは、おのずと自分自身の働きやすさにもつながっているのだと考えます。
3.学生コメント
①インタビューを通じて、ADHDという診断を受けた経験や、それを克服するための努力について伺い、とても感銘を受けました。
前職で「役に立たない」と言われ絶望しながらも、医師の助けを借りることでなんとか前を向き、物忘れや話しすぎてしまうことなどの課題に取り組んできた姿勢や、トラウマを受け入れることで克服し、自信を取り戻したことは素晴らしいと感じました。
こういったことはもちろん小宮さん自身の努力もそうですが、やはりダイバーシティを推進し、ADHDの方でも活躍できる環境を整えているアイエスエフネットさんの存在が大きかったのだなと感じました。
さらに小宮さんは、自信を取り戻しただけでなく自らロールモデルとなり、同じ悩みを持つ人の助けになりたいという思いから、交流の場を設けていることも印象的でした。
「カミングアウトがしやすい」「平等に扱われる」といった職場環境の良さが、多くの人を支えていることが分かる一方で、全体が互いの特性を理解し合えるような仕組みを求める声は、さらなる働きやすさを追求するうえで重要な視点だと感じました。
(3年 安藤耀司)
②私はADHDという言葉自体は知っていました。しかし、それらはネットの情報をつまんだ程度の物でした。ADHDということで、過去に会社で役に立たないといわれたという経験をされている方がいたとは想像もしていませんでした。正直ADHDに関しては詳しく知らないがために、「物忘れが激しい人のことを言う。」と失礼な解釈をしてしまっていました。申し訳ありません。ただその解釈は今回のZOOMで完璧に変わりました。ADHDで苦労されている方がいるという認識を持ち、過ごしたいと思います。ISFnetさんの取り組みなのか、小宮さんの考えなのか、インタビュー時間内ではわかりませんでしたが、営業先でADHDであることをカミングアウトしていただけるというのは、両者にとって受け入れる準備がしっかりとできると思いますし、とても良い取り組みだと思いました。
(3年 稲葉一颯)
③小宮さんのインタビューで印象に残っていることは、マイノリティの方への理解をしていくことと、この属性だからこういう人だと決めつけずに一人一人と向き合った上で理解していくことが必要だと考えさせられたことです。
小宮さんは同僚や上司にADHDの症状を伝えやすい関係にはなっており、相談する場もあるが、全員がその属性について100%理解できているわけではないとおっしゃっていました。また、「ADHDの特徴として世の中に広まっている偏った捉え方はあるか」に関する質問では、ADHDだからこういう人だと決めつけて判断してしまっていることだと指摘されていました。
自分自身も無意識にこの属性を持っている人はこうだと一括りで決めつけてしまっていた部分があったため、この話を聞いて完全に属性について理解できていなかったのだと気づくことができました。
以上のことから、私たちには一つの属性の中でも人それぞれ困っていることや悩みは違うことを念頭に置くことや、一括りにせずに一人一人と向き合い話を聞いた上で理解をしていくこと、世の中に広まっている偏った捉え方や偏見をなくしていくことが求められていると感じたため、私もそういう人に成長していきたいです。
(3年 I.Y)
④話を聞き最も伝わったことは、ADHDだからこうだろうではなく、この人だからこうだという個人で見ることの大切さです。ADHDやLGBTQIAなど型にはめないで、まずその人を見るということが一番その人と向き合っていることになるのだと学びました。
そして前職との差について、「前職では役立たずという扱いを受けていたが、今の職場では役に立つのではないかと思える」という言葉が印象的でした。この一言だけでISFnetの環境の良さが伝わったからです。ISFnetこそ人を特定の型にはめずその人一人ひとりに向き合っているため、その人の自信を取り戻すきっかけになれたのだと分かりました。
そして最後にISFnetの改善点として、全てのマイノリティの理解を作っていくことが必要だという点が挙げられていました。例として、小宮さん自身も、自分の属性や身近な人の属性などから発達障がいは分かるが、LGBTQIAはすべて分かるわけではないといったような理解度の差が大きくあることをおっしゃっていました。ここまでダイバーシティが推進されている企業であっても社員一人ひとりへの100%の理解があるわけではないとなると、他の企業はさらに意識を高めなければならないという現状について自分ができることは何かと考えさせられました。
(3年 H.K)
⑤トラウマがフラッシュバックすることもあり、当時の心境は一言で「絶望」とおっしゃられていた小宮さんの過去の体験を聞くことができ、本当に感謝の気持ちと貴重な体験になったと感じました。
小宮さんは、ADHDの属性を持つ人たちのコミュニティでオフ会が必要とおっしゃられていました。また、ISFnetに今後求めることとして、各属性の人たちが自分のことはわかるが他の属性の方を理解しきれていないとおっしゃられていて、会社内での理解を深めていきたいということからまず会社をさらに良くしていきたいとのことでした。その上で社会全体に色々な属性があると理解をしてほしいという熱意が伝わり、自分もその一員になれればと思いました。
「ADHDの人達も気を付けているけどそれでも失敗してしまう、努力しているのは知ってほしい。本当に努力はしている。」という言葉はとても心に響きました。ADHDという属性は外見を見るだけではわからないので初対面でわかるわけではなく、理解もされづらいと思います。今回の対談を踏まえて自分の価値観ではない、相手の立場になって考えることを心がけていきたいです!
(3年 吉田築)
※オフ会:気軽に相談しあえる、心を許せる場所の意味として登壇者が研修中に使用。
⑥アイエスエフネットの魅力について「どんな属性の人でも働けるようにするという風土のもとで、お客様に理解を求めに行くアイエスエフネットの姿勢が素晴らしく、それにより会社からの信頼に応えようという思いも芽生える」と登壇社員さんが仰っていたのがとても印象的で、アイエスエフネットは従業員1人1人との間に強い信頼関係を構築しており、社員を大切にする素敵な会社なのだということがお話からよく伝わってきました。
また、今後のアイエスエフネットに求めるさらなる支援や不満・改善点について尋ねたところ、「マイノリティの理解や共感が全体に届くというのが課題」だと仰っていました。「自分自身と同じ属性のことはよく分かる一方で、自分とは異なる属性の方の理解はまだ足りていないところがあるし、ADHDだからこうではなくADHDの僕だから悩んでいるということを理解して欲しい」というお話を聞いて、理解した気にならずにきちんと向き合って知っていこうという努力の姿勢が何よりも大切なのだなと感じましたし、相手を尊重して共に支え合う姿勢をどんな人に対しても忘れずに、私自身も多様性に富んだ社会の実現に向けて少しずつ行動していきたいと思いました。
(2年 木村桃菜)
⑦今回、小宮さんのお話を聞いて、私も定期券を時々忘れる時があったり飲食店で帰るときに皿が気になって位置を配慮したりするなど似ているとこもあるなと思いました。定期券を忘れることをなくせるように小宮さんのように置いておく場所を決めたり、体調に気を付けて万全でいられるようにしたりして対策したいなと思いました。
ADHDの方への配慮の仕方としてADHDだからこうというものはなく、ケースバイケースなのでサポートする場合は悩んでいるなら話を聞き、どうすればいいのか聞いてその上で考えると聞いて、ADHDの人という目で見ず、その人個人として悩みを聞くのがいいのかなと思いました。また、すぐに悩みに寄り添う姿勢をしてくれる人に悩みなどを話しやすいと聞いたのでそうなりたいと思いました。
これらの個人としてしっかり悩みを聞き、すぐに悩みに寄り添う姿勢をするというのは、ADHDの人に対してでなくとも重要なことなのでADHDだからと特別視しないのがいいのかなと思いました。
今回お話を聞いて、たくさんのことを知ることができました、貴重なお時間をいただきありがとうございました。
(2年 匿名)
4.次回予告
次回登壇者の属性は、ASD等の属性を持つ子の親です。今年は学生からのインタビューに加えて、異なる属性を持つ社員同士の対談を実施しました。昨年同様にインタビューした学生コメントや対談相手へのコメントなどを約10日後の3月3日頃掲載予定ですので、引き続き閲覧していただけたらと思います!