ヒューマンライブラリ⑤:ワーキングプア経験のある社員へのインタビュー

<1、3の文責・榎澤幸広(名古屋学院大学現代社会学部准教授)、2、4の文責・株式会社アイエスエフネット ダイバーイン雇用委員会 委員長)>

1.はじめに
2024年度ヒューマンライブラリ(名古屋学院大学現代社会学部榎澤ゼミ×アイエスエフネット)では、10月28日に引き続き、10月30日も3人の社員さんに登壇して頂きました(ワーキングプア、母子家庭、トランスジェンダー女性)。今回の記事は、ワーキングプア経験のある社員さんです(前回記事はASD等の属性を持つ子の親である社員(3月7日配信))。
https://www.isfnet.co.jp/isfnet_blog/index.php/2025/03/07/3359/

マイナビ転職サイトの記事(岡佳伸監修。更新日2024年2月2日)によれば、ワーキングプアとは「働いているものの十分な収入を得られず貧困状態にある人を指し、「働く貧困層」とも呼ばれています」とあります。
ワーキングプアとは?年収の目安や日本の現状、公的支援や年収アップ方法|マイナビ転職
この“十分な収入を得られず”とは、具体的にはどのくらいの収入を指すのでしょうか。このサイト記事でも引用されている厚生労働省ホームページ内資料「非正規労働者データ資料(修正)」によれば、“年収192万円未満の者(一般的にワーキングプアに含まれる者)”と示されています。これを目安にする見方もあるようです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ja05-att/2r9852000001ja67.pdf

私がワーキングプア問題を知ったきっかけは確か20年近く前のNHKスペシャルの特集だったと思います。NHKのホームページを確認してみると、2006年、特集番組「NHKスペシャル ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~」が放映されていました。また、同局ではその他にも、2017年には、家計を支えるために働かざるを得ない「高校生ワーキングプア」の実態も取り上げています。
NHKスペシャル ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~|番組|NHKアーカイブス
目撃!にっぽん 「高校生ワーキングプア 旅立ちの春」 | NHKクロニクル | NHKアーカイブス

この言葉の登場以降、「高学歴ワーキングプア」、「官製ワーキングプア」などの実態も明らかになってきました。後者に関しては、官製ワーキングプア研究会が設立の趣旨にて、①国や自治体で働く非正規公務員の多くが「働いてもなお貧しい」ワーキングプア層であること、②地方の非正規公務員の多くが女性であること、③公共サービスを担っている民間労働者の多くもワーキングプア層であると位置づけています。そして、これらに共通する課題が不安定雇用と低収入に集約できると示しております(「高学歴ワーキングプア」に関しては、婦人公論記事に一例が示されていたので、リンク先を貼っておきます)。
研究会について | 官製ワーキングプア研究会
年収200万円・56歳の大学非常勤講師「孤立した介護に追い詰められた典型的な高学歴ワーキングプア。自助努力で節約してきたけど、これ以上どうにもできない」 年収443万円―安すぎる国の絶望的な生活|お金|婦人公論.jp

それでは、ワーキングプアが増えた原因は何でしょうか。先述のマイナビ転職サイト記事によれば、①正社員ではなく非正規雇用の拡大、②介護や子育て負担を理由とした勤務時間や通勤環境などの働き方の制限、③雇用する側にもされる側にも影響を与える物価高、④働き方に対する価値観の多様化の四点をあげています。④について、同サイト記事にてより詳細な説明がなされているので、引用させて頂きます。

…従来の日本では正社員として入社して定年まで働くことがスタンダードな考え方でした。
しかし近年は、仕事だけではなくプライベートに重きを置いて理想とする暮らしを実現したい、働き方や労働時間に柔軟性を求めたいなど、さまざまな志向の人がいます。
つまり、自分の意思で収入の少ない非正規雇用などを選択することで、ワーキングプアになっているケースもあるのです。

学生コメントを読むと、ワーキングプアの定義や働き方について、登壇社員の話を通じて④の視点が欠けていたことに気づかせてもらえたと吐露しているものもありました。今回の登壇社員の話は、そのような視点への気づきだけではなく、アイエスエフネットで働く以前と以後の職場や生活環境の違いなど多くの気づきを与えてくれるものと思います。

以下の構成は、「2.アイエスエフネットの取り組み&ワーキングプア経験のある社員に関して」、「3.学生コメント」、「4.次回予告」の順となっております。昨年度のヒューマンライブラリは、登壇社員に対する学生のインタビューのみでしたが、昨年度登壇社員の要望も受けて、今年度はインタビュー後、社員同士の交流対談も追加されました。2章にその内容の一部が示されておりますので、この点もふまえ読んで頂けますと幸いです。

※インターネットリンク先は2025年3月3日確認のものです。

2.アイエスエフネットの取り組み&ワーキングプア経験のある社員に関して
アイエスエフネットグループが掲げる人権方針に基づき、当社では「ダイバーイン(※1)雇用」に取り組んでいます。個人が抱えるさまざまな特性や個性によって就労困難な方に対し、環境や仕組みを作り上げることで、本人や周りの方々が安心して働ける場を提供することを目標にしています。
アイエスエフネットでは2006年から雇用対象から不公平に除外されている方々を積極的に採用することを目標とし5大採用を掲げました。その中に本記事で取り上げた「ワーキングプア」も含まれており、2010年に目標を達成、現在はダイバーイン雇用という名称に変わり積極的な採用をおこなっています。

(※1)ダイバーシティとインクルージョンを掛け合わせたアイエスエフネット独自の言葉

【登壇者のご紹介】
氏名:Y.A.さん

自己紹介:
社内業務を担当しております、Y.A.と申します。以前の職場でワーキングプアとして勤務しておりました。現在は社内業務を中心に業務を行っております。コーヒーやお酒が大好きで旅行先での出会いが楽しみです。

学生の皆さまへのメッセージ
ワーキングプアに関して多くの情報を調べ、当日お時間をいただき、ありがとうございます。世界でワーキングプアとして生活されている方々がより生きやすい世の中になるよう皆さまと一緒に努力させてください。

対談相手へのメッセージ
当日は多くのフォローをいただき、ありがとうございます。
会話を盛り上げていただいたり、ご質問を受け付けてくださったおかげで、私自身の学びにもなりました。今後ともどうぞよろしくお願いします。

氏名:猪井さん

自己紹介+学生の皆さまへのメッセージ
https://www.isfnet.co.jp/isfnet_blog/index.php/2024/01/15/2693/
対談相手へのメッセージ ヒューマンライブラリの感想
自分の新卒時代のことを思い返すと、本当に自分がやりたかったことを職業にしたのか疑問が残ります。
私の場合はY.A.さんとは違って、自分が対応可能な職種の中でも収入面を重視して選択しました。最初の転職の際は、幸いにもバブル直前の売り手市場の社会環境もあり、やりたいことと収入増をともに得られた転職ができました。Y.A.さんがやりたいことを重視し、生活のためにアルバイトと4時間睡眠を余儀なくされたことには驚きました。制度の整った当社に入社してともに働けることを本当に嬉しく思います。

3.学生コメント

  1. 僕はアイエスエフネットのY.A.さんへのオンラインインタビューを通じて、ワーキングプアについての理解や転職の背景や働き方の変化について深く知ることができました。
    前職ではウエディングプランナーやカフェ業務に従事され、やりたいことを優先するあまり、求められるものとのギャップに悩んでいましたが、アイエスエフネットを選んだことで、人間関係の良さや働きやすさを実感されている様子が印象的でした。
    特に、残業がなくなり、自分の強みに気づけたことは大きな成長に繋がっているのだと感じました。
    また、有給休暇の融通が利く点もここでの働きやすさを象徴しており、労働環境の重要性を再認識しました。
    一方で、Y.A.さんは、通院が必要な方への休暇制度など、さらなる改善点にも触れられており、課題に前向きに向き合う姿勢が素晴らしいと感じました。
    「相談する前に行動」という言葉には、これからの働き方への前向きな姿勢が読み取れ、とても感銘を受けました。(3年 安藤耀司)
  2. Y.A.さんは以前に一日一組限定のカフェで働いていた社員の方です。ISFnetに入社したきっかけはカフェで様々な人の幸せを見ていたけれど、エンジニアとしてもっとたくさんの人の幸せに携わりたいという想いで入社を決めたそうです。
    私が印象に残った点は二つあります。
    一つ目は「前職と比べて収入に点をつけるなら」という質問でやりたいことをやっていたため収入に点数をつけることができないという回答です。私はワーキングプアであることで、必ずネガティブな感情を持っているものだと思っていました。しかしY.A.さんは自分のやりたいことをやっていたその期間もとても充実していたことが読み取れました。自分が思っていたワーキングプアのイメージと印象が違っていたため貴重なお話を伺うことができ良かったです。
    二つ目は、ISFnetは働く意欲や本人が努力を惜しまなければその分評価されること、キャリアをあきらめずに働くことができる制度が整っているところです。
    例えば相談する機会が週に一度はあったり、育休や産休明けでも働ける制度が整っていたりするので社員の方が安心して働くことのできる環境が整っていることがISFnetの良いところだとお話を聞いて改めて感じました。(3年 O.M)
  3. 今回のヒューマンライブラリが開催される前、ワーキングプアという属性について事前学習を行ったところ、どのような経緯でワーキングプアとなったのか、またワーキングプアの頃どのような辛い経験したのか気になっていました。
    そこで今回のインタビューで印象に残ったことは、Y.A.さん自身が望んでいる仕事をしていたことが原因でワーキングプアとなってしまい、当時は副業もしていたということです。私はワーキングプアと聞き自分の好きな職業ではなく、興味のない仕事をされているものだと勘違いしていました。このことから事前学習の時点でワーキングプアの方に偏見を抱いていたのだと気づきました。また副業をしてまで自分のやりたい仕事をしている姿勢がかっこいいと感じました。当時の心境を聞いた際に「特に辛いと感じたことはなかった」とお答えになっていました。この回答に私は驚き、それと同時に、この言葉から自分のやりたいことを仕事にすることの重要性について考えさせられました。
    その他にも社員一人ひとりに向き合いヒアリングを行うことでアイエスエフネットではどのような方でも働きやすい環境が整っていることが伝わってきました。(3年 加藤光真)
  4. 今回インタビューさせていただいたY.A.さんは、「多くの人を幸せにしたい」という思いから転職を希望してアイエスエフネットに再就職されました。前職での悩みは、仕事と生活の両立の部分が大きかったというお話を聞いて、就職活動の最中である私たちにとって仕事を選ぶことに対しての貴重な意見をお聞きすることができました。それから、ワーキングプアになってしまう要因として挙げられていたのは、収入面よりもやりたいことを優先してしまうからというお話を聞いて、仕事を選ぶ上で気を付けるべきポイントも同時に教わることができ、有意義な時間になりました。
    また、アイエスエフネットの強みは何かと質問した際に「人間としての強み」「特性を発揮できる」とおっしゃっていたことがとても印象的でした。会社の魅力を社員さんからはっきりと言えるということは、会社と社員さんの間に強い信頼関係があることなのかなと感じることができました。(3年 D.H)
  5. Y.A.さんのお話を聞いて、やはりアイエスエフネットさんは働きやすい環境が出来ているのだと感じました。私はY.A.さんのお話の中で、前職では収入よりもやりたい事を優先した結果、生活が大変になり、本職とは別で副業を行っていたため自由な時間がほとんどなく寝る時間も約4時間だけだったいう話がとてもよく印象に残りました。「現在の日本でこんなにも睡眠時間が短い社会人がいるのか?」と(オンラインミーティングに参加した)パソコン前で私自身驚いたのを今でも覚えています。そんなY.A.さんの前職時代に対して、「アイエスエフネットさんでは有給休暇や育休、産休などをはじめ女性がキャリアを諦めなくていい制度が多く用意されているため、自由な時間が増えた」とおっしゃっていたので働きやすい環境が出来ていると感じました。(3年 福井晴斗)
  6. 貴重なお時間をありがとうございました。
    インタビューを通して、私はワーキングプアについて偏見を持っていたと気付かされました。
    私がお話を聞いて初めに思ったことは夢は叶えるがゴールではないんだということです。回答してくださった内容で大変だったことは自由な時間や睡眠時間も無く、あったとしても食事や入浴の時間ぐらいだったそうです。自分の目標であった夢を取るか、現実的な生活を取るか、簡単に夢は手放せないものであるため、決断されたことを凄いと私は思います。
    アイエスエフネットはお休みをもらう制度やサポートなどが充実しているそうです。転職してから自分のやりたいことをやれる時間が増えたとのことで今では女性として管理職になることを目標とされているとのことでした。この点、まずは頼れる人になりたいとのことでした。
    最後に来年から就活を控えている私たちへのアドバイスを頂きました。
    「何を重視して働くか」、「やりたいと思ったことがブレないことが大事」など私たちの背中を押してくれるとても心強い言葉を頂くことができました。まだ就活について何も知らない私にとってこれから頼りにしていこうと思う言葉でした。(2年 匿名)

4.次回予告
次回登壇者の属性は、母子家庭です。今年は学生からのインタビューに加えて、異なる属性を持つ社員同士の対談を実施しました(対談相手の属性はADHD)。昨年同様にインタビューした学生コメントや対談相手へのコメントなどを3月下旬ころ頃掲載予定ですので、引き続き閲覧していただけたらと思います!